- 制作
- 2015年
- クライアント
- ItoYokado
- 出演
- 八坂沙織・田中美麗(元SUPER☆GiRLS)桑原洋一
- 監督・脚本
- 渡邉直也
- 撮影
- 近藤将大
- 制作期間
- 約1ヶ月
「テーマは『鰤(ぶり)』。キャストは『SUPER☆GiRLS』。尺は5分。」
2015年、私たちが初めてWebドラマCMを手がけることになったこの企画は、たった3つの条件から始まりました。クライアントはイトーヨーカドーさま。
右も左もわからない中、約1ヶ月という制作期間で、、私たちはこの難題に挑むことになったのです。
これは、一つのWebドラマが完成するまでの、試行錯誤とひらめきの記録です。
すべては「体験」から始まった。最初のシナリオハンティング
何から手をつければいいのか。
まずは、テーマである「ぶり」を深く知るため、妻と娘を連れてイトーヨーカドー曳舟店へ向かいました。
いわゆるシナリオハンティングです。
鮮魚コーナーで「ぶり」を手に取った瞬間、一つの発見がありました。
パッケージには生産者の方の名前と似顔絵が。
「顔が見える商品。」というキャッチコピーが、商品の安心・安全を物語っていました。「これは使える!」直感的にそう思いました。
家に帰り、妻に「ブリの照り焼き」を作ってもらいました。
もちろん、味は格別です。
しかし、この「美味しさ」や「安心」を、どうすれば5分間の物語として伝えられるのか?
「誰と食べるか」から生まれた最初のコピーと、大きな壁
私たちは、料理や食事に関するキーワードを徹底的にリサーチしました。
そこで見つけたのが、「いつ食べるかではなく、誰と食べるか。」
「何を食べるか、ではなく誰が作った料理を食べるか。」
という言葉です。食材の安心・安全を大前提としつつ、この「誰と」という部分に焦点を当て、「どうせならあなたと一緒に」
という作品コピーを考案。
夫婦の日常を描いた初稿の絵コンテを制作しました。
キャラクター設定
「I love You ぶり編」・登場人物表
伊藤陽子(30):妻。IT系の仕事に就いている。
伊藤さとし(32):陽子の夫。SE。鈍感。
橘 ミサト(30):陽子の会社の同僚。独身。
高橋雅治(26):さとしの後輩。独身。
イトーヨーカドーの売り場の社員(36)まだ子供のいないさとしと陽子。
そんな二人の楽しみは二人で食卓を囲むこと。
料理上手な陽子のつまみを肴に一杯飲むのがさとしの楽しみだった。
陽子もそんなさとしに手料理を振る舞うことに歓びを得ていた。しかし、働き盛りの二人。
時には仕事が忙しく、すれ違う日々もある。ある繁忙期、最近手料理を振る舞っていないさとしのために
陽子は働く仲間に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも帰宅。
運良く今日は早く帰ってこれるさとしのために
手料理を作って待っていた。そんな中、さとしは急な接待が入り、陽子へ連絡せずに接待へ向かう。
接待会場の小料理屋で一杯、二杯、三杯・・・・
お腹も満たされて帰宅したのだった。というところからお話が始まり。
絵コンテの一部


しかし、クライアントからの返答は厳しいものでした。
「料理を無駄にするシーンはダメ」 「夫婦喧嘩はダメ」
たった2行のフィードバック。
しかし、それは企画の根幹を揺るがすには十分でした。
プロジェクトは暗礁に乗り上げてしまったのです。
絶望の中から見つけた「I to You」という光
もう一度、原点に立ち返ろう。ノートに「ItoYokado」と書き出してみました。
その文字をじっと見つめていると、ある言葉が浮かび上がってきました。
「I to Yo kado」 → 「I to You」
これだ!と膝を打ちました。
初稿がすれ違いを描いたものなら、次は真逆の「愛」の世界を描こう。
コンセプトを「I love youのある世界」と定め、私たちは再びシナリオ制作に取り掛かりました。
しかし、コンセプトは決まったものの、具体的な物語が全く浮かんできません。
頭を抱える私に、妻がこう声をかけてくれました。
「実際に自分でブリの照り焼きを作ってみたら?」
料理下手が気づいた「黄金比」と「思いやり」の正体
正直に言うと、私はひどく不器用で、料理も得意ではありません。
妻からレシピ本を借り、ある1箇所を除いて、書かれている通りに作ってみました。
結果は…不味くはないが、美味しいとも言えない、なんとも中途半端な味。
妻に試食してもらうと、核心を突く答えが返ってきました。
「ブリの照り焼きには『醤油:酒:みりん:砂糖=2:2:2:1』っていう黄金比があるけど、いつもその通りに作っても同じ味にはならないの。
だから、食べる相手の好みに合わせて少しだけ分量を変えるのよ。
あと、料理が苦手な人って、なぜか目分量でやっちゃうことが多いよね。」
衝撃でした。
1日に3食、10年間で1万回近くキッチンに立ってきた妻
(妻は決して料理人でありません。当時は画材屋で働く普通の妻です。)
のような「職人」ならまだしも、料理素人の私が目分量でうまくいくはずがありません。
そして、「相手に合わせて味を調整する」という行為そのものが、
愛情表現なのではないか。
この瞬間、物語の核が生まれました。
・数十回しか台所に立ったことがない → 新婚夫婦の設定
・実家の味と比べられることへの不満 → 夫婦のリアルな会話
・最近、母の味より妻の味のほうがしっくりくる → 味覚の変化と、妻の愛情への気づき
これらの実体験に、「愛とは互いに思い合うこと」というテーマを加え、
「相手に合わせて味を変える」という日常に隠された愛情。
この気づきをシナリオの核に据えつつ、さらに「愛」の要素を深めるためのヒントを探していました。
そんな時、皆さんも記憶にあるかもしれませんが、昔『ズームイン!!朝!』で放映されていた、ある有名なCMを思い出したのです。
言葉ではなく、行動で示す思いやり。
あのCMが描いていた静かで温かい愛情の形こそ、私たちがこのドラマで描くべき「I love you」の世界だと直感しました。
この発見が、次のコピーを生み出す大きな推進力となったのです。
それが「おふくろの味もキミの味に」。
私の味覚は、いつの間にか母の味から妻の味を好むようになった。
いや、もしかしたら、妻がずっと私に合わせてくれ続けていたのかもしれない。
そんな、少し照れくさい「のろけ」を込めたコピーです。
度重なる制約が、新たな表現方法を生んだ
シナリオを書き始めると、伝えたい想いが溢れ、気づけば原稿用紙20枚(約20分)の大作に。これを5分に収めなければなりません。
さらに追い打ちをかけるように、 「撮影は1日で終わらせてください」
「イトーヨーカドー店舗での撮影はできません」
という予算とスケジュールの都合による厳しいオーダーが追加されました。
まさに絶体絶命。
そんな時、偶然にも別案件で担当していた新入社員のインタビュー撮影が、大きなヒントを与えてくれました。
「これだ!」
インタビュー形式であれば、限られた空間と時間の中で、登場人物の心情を深く、そして効果的に描くことができる。
このひらめきによって、ついに台本が完成したのです。
監督が最も苦しむ「カット」という作業
撮影当日は、素晴らしいキャストとスタッフに恵まれ、驚くほどスムーズに進行しました。
問題は編集です。全てのシーンを繋ぐと、総尺は10分。
目標の5分に収めるため、断腸の思いで要素を削ぎ落としていく作業が始まりました。
映画『映画大好きポンポさん』でも描かれていますが、監督にとって自身が生み出したシーンをカットする作業は、最も苦しいものです。
繋いでは戻し、悩んでは削る。
その繰り返しを経て、ようやくガイダンス1本目のWEBドラマCM作品が完成しました。
最後に
この作品は、私たちにとって初めての商業WebドラマCMであり、たくさんの困難と制約がありました。
しかし、自ら体験し、そこから得た気づきを物語の核に据えること。
そして、制約を嘆くのではなく、新しい表現を生むチャンスと捉えること。
このプロジェクトは、創作における最も大切なことを教えてくれました。
ぜひ、そんな作り手の想いも感じながら、ご覧いただけると嬉しいです。
▼完成したWebドラマ『I love youのある世界』(ブリ編)
本記事の著者

- 合同会社ガイダンス CEO
- 映像制作の現場を熟知していたことからバーチャルスタジオ構築や生放送プロデューサーを任せられるなど…、数々の責任のあるポジションを経験。 その中で唯一自分が楽しめて、お客様にも満足していただける“WEBドラマ”に出会いました。多くのパートナーに支えられながら、常にお客様の目線に立った企画制作を行っています。
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