制作
2015年
クライアント
ItoYokado
出演
芦田愛菜、住田萌乃、田山由起、桑原洋一
監督・脚本
渡邉直也
撮影
近藤将大

「キャストに芦田愛菜さんと鈴木福さんのどちらかを使って、ランドセルのWEBドラマを作ってほしい」
2015年、「ブリ編」「ネットスーパー編」を終えて安堵していた私に、信じられないような依頼が舞い込みました。しかし、提示された予算は桁が一つ少ない。
キャスト費は先方持ちとはいえ、無名の私にこの大役が務まるのか?不安と同時に、「最高のものを作って会社の価値を高めてやる」という野心が燃え上がりました。

結果的に、この作品がきっかけでWEBドラマの仕事が続々と舞い込み、私たちの会社の礎を築くことになります。これは、会社の運命を変えた、壮絶で、何物にも代えがたい制作の記録です。

ゼロからの挑戦。我が子から生まれた2つのシナリオ

企画は、大きな違和感から始まりました。仲介の会社から送られてきた企画書は、どう読んでも「ランドセル」というテーマには結びつかないもの。
おそらく、大物キャストの起用に、少し周りも浮き足立っていたのでしょう。このままでは良い作品は作れない。私は、こちらで企画提案させてほしいと直談判しました。

返ってきた答えは、「では、シナリオを2パターン用意してください」。A案B案の企画書ならまだしも、シナリオを2本? 正直、途方に暮れました。
デスクで悩んでいても仕方ないので帰宅し、眠っている娘と息子の顔を見ながら妻に相談すると、「チャンスじゃない!なんでも協力するから頑張って!」と力強く背中を押してくれました。(これまでの絵コンテも、全て芸大美術学科卒の妻が描いてくれていました。)

その言葉と、子どもたちの寝顔を見ていた時、ふと閃きました。 そうだ、A案は今、目の前で寝ている娘と息子の物語に、B案はマイペースな息子の物語にしよう、と。こうして、私自身のリアルな子育てから生まれた2つのシナリオが完成したのです。そこでできたのがこちら。

A案

B案

※原案を全文読みたい方はお問い合わせください。

プロの洗礼。脳みそを20分割した悪戦苦闘の日々

数日後、「A案に決まりました!」と吉報が。
方向性が決まった喜びも束の間、ここからが本当の戦いの始まりでした。仲介会社や関係各所からは、新人監督なら誰もが一度は経験するであろう、厳しい洗礼の数々が…。ここでは語り尽くせないほどの壮絶なやりとりが繰り広げられました。(ここで記載できない内容が多すぎるので、気になる方は個人的にDMをください(笑))
シナリオをFIXさせなければならないのに、そのほかの業務が怒涛のように押し寄せます。

・シナリオ修正(これが予算に直結する)
・膨大な提出資料の作成
・分刻みの香盤表作成
・母親役・父親役のキャスティングと実績資料作成
・PPM(撮影前会議)資料の準備
・ロケ地探し…

脳みそを5分割、いや10分割、20分割しながら、必死に業務をこなす毎日。何度もシナリオを書き直し、何度も香盤表を見直す。まさに悪戦苦闘の日々でした。
何度も何度もシナリオを直し、何度も香盤表を見直し・・・の繰り返し。
やっと完成したのがこちら。

※原案を全文読みたい方はお問い合わせください

最大のピンチを救ったのは、娘が描いた「絵日記」

物語のキーアイテムは「絵日記」でした。当時、多忙でなかなか会えない娘の成長を知るため、妻が保育園とやりとりしている連絡帳を毎日見るのが私の日課でした。この「親子の交換日記」を、そのまま物語の軸に据えたのです。

しかし、撮影3日前。制作スタッフから一本の電話が。 「監督、この絵日記、どうしますか?」「あ…」シナリオに没頭するあまり、小道具の準備を完全に失念していました。血の気が引きました。

万事休すか、と思ったその時、そばにいた娘が言ったのです。「描いてあげるよ」保育園でひらがなを習い始め、毎日楽しそうに絵日記を描いていた娘。
その一言は、まさに天からの助けでした。そう、本作で芦田愛菜さんの手元にあるあの絵日記は、私の娘が描いた、世界に一つだけのものなのです。

本気のプロフェッショナル、芦田愛菜という才能

予算の都合もあり、少数先鋭で臨んだ撮影現場。
色々話したいことも山盛りなんですが、ここでも記載できない内容が多々あるため気になる方は個人的にDMをください(笑)。

当時の撮影風景

一つ言えるのは芦田愛菜ちゃんはすごい方でした。台本をチラッと覗いたら赤・青・黄色で線を引いてあり、その横に「感情表現」が記載されていました。
また台本の『監督、「ダメだよー、ひよー」という部分はどんな感情なんですか?』と質問されたとき、この俳優さんは演技に本気なんだ、この本気で臨んできてくれる俳優と今から仕事するんだ!と嬉しくなりました。

悔し涙の先に見えた光。すべての経験は、未来の力になる

しかし、人生はうまくいかないものです。ここでも記載できない内容が多々あるのですが作品は無事に完成したものの、納品は一筋縄ではいきませんでした。

最終的に、本作まで関わっていた仲介会社とは、この作品を最後に縁が切れました。
今思い出しても、ただただ悔しい。ですが、皮肉なことに、この悔しい経験が大きなバネとなりました。

この作品の実績がきっかけで、WEBドラマやCMの仕事が次々と舞い込むようになったのです。仲介会社への感謝はゼロですが、この『I to You』3部作を振り返ると、この運命には感謝しかありません。

・『I to You』という、私たちの創作の軸となるコンセプトを生み出せたこと。
・低予算という厳しい状況下で、身を粉にして動いてくれた撮影スタッフ、編集・MA技師の皆さん。
(もちろん人件費は正規でお支払いしました。皆さんが機材費などを必死に抑えてくれたおかげです。)
・まだ誰も正解を知らないWEB動画の黎明期に、恐れず飛び込めたこと。

この3部作で得たすべての経験とロジックが、”WEBドラマ制作会社”としての私たちの揺るぎない強みになりました。悔しさも、苦しさも、そして小さな奇跡も、すべてが未来に繋がっていたのです。

▼完成したWebドラマ『I and Youのある世界』(ランドセル編)

本記事の著者

渡邊直也
渡邊直也合同会社ガイダンス CEO
映像制作の現場を熟知していたことからバーチャルスタジオ構築や生放送プロデューサーを任せられるなど…、数々の責任のあるポジションを経験。 その中で唯一自分が楽しめて、お客様にも満足していただける“WEBドラマ”に出会いました。多くのパートナーに支えられながら、常にお客様の目線に立った企画制作を行っています。