制作
2015年
クライアント
ItoYokado
出演
宮﨑理奈(元SUPER☆GiRLS)、隆
監督・脚本
渡邉直也
撮影
近藤将大

「テーマは『ネットスーパーを知らない層に、その便利さを伝えたい』。
キャストは『SUPER☆GiRLS』。尺は5分。」
2015年、あの「ブリ編」と同時進行で、もう一つのWebドラマ制作がスタートしました。提示された条件は上記の3つ。しかし、この「ネットスーパー編」は、「ブリ編」とは全く違うアプローチで企画が進むことになります。これは、自身の“思い込み”を捨て、地道なリサーチとリアルな日常から「共感」を紡ぎ出した、もう一つの創作記録です。

企画は順調? ヘビーユーザーだからこその「落とし穴」

意外にも、本作の企画立案はスムーズに進むかに見えました。なぜなら、私自身がイトーヨーカドーのネットスーパーを使い倒すヘビーユーザーだったからです。
当時はまだ、今のようにamazonで気軽にネット注文できる時代ではありません。我が家には幼い子どもが二人。車も持たず、日々の食材やおむつ、トイレットペーパーといった必需品の買い物は、まさに一苦労でした。そんな我が家にとって、ネットスーパーは救世主のような存在でした。「こんなに便利なサービス、自分たちの体験を元に描けば間違いない!」

しかし、すぐにテーマに立ち返ります。「ネットスーパーを知らない層に伝えたい」。私の体験は、あくまで「知っている側」のもの。まずは、ターゲットを探すためのリサーチから始めることにしました。

本当のターゲットはどこに? 地道なリサーチで見えた課題

まず、娘が通う保育園のママさんたちに話を聞いてみました。すると、驚くべきことに約95%がすでに利用済み。これではテーマに沿いません。そこで、調査対象を広げ、友人や行きつけのBarで出会った方々に「普段どこで買い物してる?」「不便なことは?」と、ひたすら聞いて回りました。すると、面白い傾向が見えてきました。

子育て層:意外と知っていて、利用経験者も多い。
独身層・子どものいない既婚層:サービスの存在自体に驚き、「重い米や水を買うのが大変」といった悩みを抱えている。

そして、ある独身の男性から、決定的なヒントを得ます。
「風邪で会社を休んだ時が一番困る。買い物に行けないから、ご飯も薬もまともに摂れないんです。」これだ!と確信しました。
ターゲットは、病気や怪我などで一時的に「買い物弱者」になりうる独身層。課題は「いざという時、どうする?」。ここから、最初の企画が生まれました。

砕けた「遠距離恋愛」の夢と、逆転の発想

ターゲットと課題から、私たちは「遠距離恋愛」というシチュエーションを思いつきます。なかなか会えない彼女が、サプライズで彼の家にやってきて、ネットスーパーで食材を注文し、カレーを作ってあげる、というストーリーです。距離を縮めるサービスとして、ネットスーパーを描こうと考えました。

しかし、ここで企画の根幹を揺るがすフィードバックが。
「ネットスーパーは生鮮食品を扱うため、配達エリアが限定されています。」

当然です。遠距離ではサービスが利用できない。企画は振り出しに戻りました。悩むこと数分。私たちは、リサーチで得たあのヒントに立ち返りました。
「風邪で買い物に行けない」。そして、すでに決まっていたキャスト、宮﨑理奈さん(みやり)と、飲食店のバイト経験がある田中隆二さんの個性を活かし、「風邪をひいた彼女」と「料理ができる彼氏」という設定で、一気にシナリオを修正したのです。

徹夜続きの日常が、シナリオにリアリティを与えた

シナリオを肉付けする上でヒントになったのは、他でもない自分自身の日常でした。当時、独立したばかりで複数の案件を抱え、ほぼ毎日徹夜状態。家族とのコミュニケーションはLINEが中心で、妻が作ってくれたお弁当と一緒に、栄養ドリンクが添えられていることもしばしば。この、言葉を交わさずとも伝わる「思いやり」の体験を、そのまま二人のやりとりに投影しました。

そして、全体のコンセプトも「ブリ編」の「I to You」から発展させ、レゲエで「あなたと私(私たちは一つ)」を意味する「I and I」をモチーフに、「I and You」と名付けました。

限られた予算との戦いが生んだ、5つのコスト削減術

本作は「ブリ編」との2本立て。限られた予算の中で、いかにクオリティを担保するか。まさに経営者としての腕の見せ所でした。(結果、利益はほぼ残りませんでしたが…笑)

1.シチュエーションの限定: 舞台を「彼女の部屋」と「彼のオフィス」の2箇所に絞り込みました。
2.キャスト費用の工夫: オーディションの際に知り合いの事務所に依頼し、複数の役をまとめて発注することでコストを抑制しました。
3.衣装提供の交渉: クライアントであるイトーヨーカドーのアパレル部門から衣装を提供していただき、大幅なコストダウンに成功しました。
4.撮影日数を1日に圧縮: 人件費を抑えるため、分単位で香盤表を練り直し、撮影を1日で完結させました。
5.ロケ地の再利用と交渉: 彼女の部屋は「ブリ編」のロケセットを再利用。彼のオフィスは、当時利用していたシェアオフィスに交渉し、看板を見せることを条件に無料で撮影許可を得ました。(もちろん、他の利用者の方々にも許諾済みです!)

創作の喜びと、今も色褪せない作品への想い

1作目の「ブリ編」での苦労があったからこそ、同じチームで臨んだ本作の制作は驚くほどスムーズでした。何より、学生時代には叶わなかった「観る人をキュンとさせるラブストーリー」を、Webドラマという形で実現できたことが、個人的には本当に嬉しく、楽しい経験でした。

宮﨑理奈さんが演じるヒロインの愛らしさは、今見返しても色褪せません。ぜひ、そんな制作の裏側も感じながら、ご覧いただけると嬉しいです。

▼完成したWebドラマ『I and Youのある世界』(ネットスーパー編)

本記事の著者

渡邊直也
渡邊直也合同会社ガイダンス CEO
映像制作の現場を熟知していたことからバーチャルスタジオ構築や生放送プロデューサーを任せられるなど…、数々の責任のあるポジションを経験。 その中で唯一自分が楽しめて、お客様にも満足していただける“WEBドラマ”に出会いました。多くのパートナーに支えられながら、常にお客様の目線に立った企画制作を行っています。